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車いす陸上競技
山口 拓選手にインタビュー

 愛知県在住の会社員、山口拓さんは、仕事の傍ら、あいちトップアスリートアカデミー「パラアスリート部門」のアカデミー生として、陸上競技用車いす「レーサー」で走り込みの練習に励んでいる。

陸上競技用車いす「レーサー」とは、前輪と、2つの大きな後輪からなる3輪の車いすで、生活用に使う車いすと見た目は大きく異なる。アルミやチタンで作られたフレームは丈夫で、重量は8〜10㎏と軽量だ。障がいの状態に合わせた着座姿勢を取れるのも特徴で、腹筋が機能する選手は正座姿勢で乗り込み、屈んで低い姿勢になり空気抵抗を減らす。一方、自力で上半身を起こすのが難しい選手は、体を起こした状態で重心を後ろにして乗る。山口さんは前者だ。

レーサーに乗って走る競技は、トラック種目の短距離、中距離、長距離、リレー、そのほかロードを走るフルマラソンなどさまざまだ。

 山口さんには、生まれつき二分脊椎症という障がいがあり、下肢に麻痺がある。小学校・中学校は地域校で過ごし、高校の特別支援学校で障がい者スポーツに出会った。もともとスポーツが好きで、これまでに車いすバスケやボッチャ、車いすダンスに挑戦し、
レーサーに乗り始める前も、会社の近くのグラウンドを、自身の車いすで走ることが好きだったそうだ。

陸上競技にも挑戦したいと思っていたが、どう始めればいいかわからないでいた。そんなとき、山口さんが知らないあいだに、奥様が愛知県のあいちトップアスリートアカデミー「パラアスリート部門」選考会に応募していて、知らないあいだに選考会に行くことになったそうだ。

「何かスポーツを始めるとしても、個人で取っ掛かりを見つけるのはすごく難しいんですよね。どういうふうに、そのスポーツをしている人達のなかに入っていけばいいのかなど、わからないことだらけでした。なので、こういう機会があるのか、と思いました」

レーサーで走ることを始めて からは、土曜日になると、愛知パラ陸上競技協会指導のもとロードを走りに行くそうだ。そのほかにも、仕事が終わって帰宅したあとは、室内で負荷をかけて練習ができる「ローラー」という機械にレーサーを乗せ、走る練習をしている。

山口さんは、職場にも練習先にも、自身で車を運転して通う。レーサーは車に積んで運ぶようだ。ロードでの走るのは約1時間。距離にすると約20㎞を、まわりの先輩たちと一緒に走る。

陸上競技の車いすレース種目は、鍛え抜かれた筋肉で疾走するスピード感が特徴的だ。現 在、練習での山口さんの走りは、平地で時速約25㎞、下り坂では時速約30㎞のスピードになる。トップ選手だと、さらに速いスピードになるという。

怖いという感覚はなく、むしろ風を切って走る感覚が楽しいと語る山口さん。「日常生活では体験できないような疾走感を感じられて楽しいですし、練習が辛いといった負の感情はないです」

レーサーに乗り始めて一年経たない現在は、自身が短距離に向いているのか 、長距離 に向いているのかはまだわからない状況で、まわりの人にも見てもらいながら模索している。自身が漕ぎやすいフォームや、より効率よくスピードが出せる漕ぎ方などを習得するのが難しい点でもあるそうだ。

レーサーで走ることの楽しさを、あらためて山口さんに聞いてみた。

「今まで自分が取り込んできたものって、全く知らない環境のものだったんですよね。初めてレーサーに乗って大会に出るのもそうです。その『初めてを体験する』というところが楽しいですね。それに、レーサーではふだん味わうこ
とのできないスピード感をすぐ出せるのもすごく楽しいです」

練習が辛いという感情はない山口さん。 「やっていくうちにどんどん『これぐらいのスピードが出た、もっと出せるんじゃないか』と実感できる のも楽しいです」 また、今後取り組んでいきたいこととして、「まずはいろんな大会に出場して、地道に経験を積んでいきたいです。将来的には、パラリンピックの出場を目指したいです」と語ってくれた。

インタビュー 小林 景子