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アーティスト あべくるみさんにインタビュー

黒いペンで描かれた細やかな模様に独特な色使い。
まるでどこまでも広がる宇宙のよう……。
筆者はあべくるみさんの絵を初めて見た時、そのように感じた。
読書の皆さんも、まずは彼女の描き出す世界観を見てほしい。
そして、自分の中に生まれる感情を楽しんでほしい。

今回は自閉症と知的障がいを抱えながらアーティストとして活躍中のあべくるみさんのお母様、阿部千秋さんにインタビューをさせてもらった。
あべくるみさんの描いたイラストがプリントされたTシャツ姿で登場した千秋さんは、笑顔が輝いていた。
くるみさんは、日常生活は自分でできるが、外出は親やヘルパーと一緒だ。予定は予め写真や動画で伝えることで見通しがつき安心して楽しむことができる。会話は短い文で明確に伝えてあげ、くるみさんは名詞、動詞、色を声に出して伝えてくれる。

普段は生活介護「ふらっと」に通いながら仲間と活動し、帰宅後は自宅で絵を描き、会社でアーツ雇用もされている。

14歳の時「面白い字を書くから絵も描くの?」と通っていた児童デイサービスの理事長に尋ねられ見せたところ、背中を押してもらったことで両親が個展を開催。今年で二十回目を迎えた。個展ごとに輪が広がり、作品が仕事となっている。翌年、あいちアール・ブリュット展優秀賞受賞をキッカケに愛知県の展覧会に多く参加したことで、作家仲間との交流が増えたことが何よりの財産だという。くるみさんの個展を開く際、プロフィールにはあえて障がい名を載せていない。
「障がい者が描いたものと先入観を持たずに純粋に『あべくるみ』の作品を楽しんでほしい」と語る姿に、障がいがある筆者も深く共感し、その言葉に母親としての千秋さんの深い愛情が感じられた。
千秋さんは、短大の保育科で泊りがけの実習で自閉症や知的障がいの方と関わったことがあった。
「手助けがしたい」と臨んだ千秋さんだが、それは真逆だった。得意なことを仕事として、趣味のドラムを演奏してくれたり、手芸をされたり、実習生の方が人生の先輩方に 教えて頂くことばかりだったという。
「最終日に自閉症の方が部屋に来てご自身で描いた絵をプレゼントして下さった思い出が心に残っています」
言葉がない方が絵で表現し気持ちを伝えてくださったことが、くるみさんの今と重なるそうだ。
生まれてから目線が合わず呼んでも振り向かない娘のことが千秋さんは心配でたまらなかった。書店で手にした自閉症の本がぴったり当てはまり愕然とする。母子通園の療育センターに通い3歳過ぎに自閉症の診断が出た。原因がわかりスッとしたが、なぜ我が子がと悲しみは大きかった。
ある日、大好きな「みつばちマーヤの冒険」のお話をしながら虫たちの絵を描いて見せると『描いて! 描いて!』とくるみさんが千秋さんを求めてくれた。
「やっと両想いになれたんだ!その瞬間を今でもはっきり愕然とする。母子通園の療育センターに通い3歳過ぎに自閉症の診断が出た。原因がわかりスッとしたが、なぜ我が子がと悲しみは大きかった。
ある日、大好きな「みつばちマーヤの冒険」のお話をしながら虫たちの絵を描いて見せると『描いて! 描いて!』とくるみさんが千秋さんを求めてくれた。
「やっと両想いになれたんだ!その瞬間を今でもはっきりていこう。好きなことを思う存分やらせてあげたい。私たちらしく、人生を楽しんでいこうと思えるようになった。くるみさん自身も、千秋さんが描いて見せたことで絵を描くことが大好きになり、外出時もどんな時も紙とペンは持ち歩いていた。
小学校は地域の学校の特別支援学級で、普通学級の友達に恵まれ成長した。24歳の今も交流が続く。中学校からは特別支援学校で、絵が独創的に変化していく。
登下校や遠足など母の付き添いが、中学からはなくったことから解放感を味わえ、自分らしくなれたからだろうと千秋さんは嬉しかったという。
そんなくるみさんは16歳から1年と21日、目を閉じて生活していたことがある。それは目を閉じて歩いた楽しさがキッカケだった。目を閉じながらも、絵は変わらずに描き続けた。
目を閉じることで感じられる音、温度、人の感情。五感を磨いていたのかもしれない。
目を閉じ始めた時、先生、友達、関わる全ての方が「くるみさんのチャレンジを応援しますよ」と楽しんでくださったことが何より嬉しく私たちの力になったと千秋さんは語る。

個展の会場では千秋さんが対応するが「この絵を描いた人はどんな人?」と尋ねられると、くるみさんを紹介する。そこで初めて障がいの話をすることもある。「あなたが描いたのね」とくるみさんに声をかけたり、抱きしめてくれたりする人もいて、くるみさんも笑顔になる。
「障がいありきで絵を見てもらうのではありません。でも、絵を見てもらって、この障がいを理解してもらうと言うこともとても意味があることだと思います」
会場を訪れた人の中には、元気になってほしい家族や友人を連れ、何度も足を運ぶ方も多い。来場してくれたとある認知症の方は、初めは不機嫌だったが、絵を見て感動で走り出したそうだ。「言葉はいらないんだ! 娘の絵は人の心に響くんだと確信した瞬間でした」
綺麗事だけじゃない。リアルな気持ちを聞いて筆者はとても心が打たれた。乗り越えた からこそ、母、千秋さんの笑顔がピカピカなのだ。
「くるみが持っている絵のパワーで人の笑顔が咲き、周りの方たちの支えで、くるみや私たち夫婦は幸せな人生を送っています」
感謝の気持ちが幸多き日々を創り出しているのではないか。
これからも、くるみさんを支えるご両親の姿、そして『あべくるみの作品』で、人々の心に色をつけてくれるに違いない。

インタビュー 佐々木美紅